弁護士 中島成 先生

デジタルプラットフォーム取引透明化法施行と特定デジタルプラットフォーマーの責任

2021年5月27日
著者: 弁護士 中島 成

2021年2月1日にデジタルプラットフォーム取引透明化法が施行されました。
今後は対象業種にネット広告が追加されることが検討されており、今後の適用範囲にも注目が高まります。

具体的に、デジタルプラットフォーム取引透明化法施行によりどのような影響があるのか、弊社顧問弁護士の中島総合法律事務所 代表の中島先生に解説して頂きました。

法の施行と特定デジタルプラットフォーマーの指定

デジタルプラットフォーム取引透明化法(正式名称:特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律)(以下「法」)が2020年5月27日に成立し、今年(2021年)2月1日に施行された。
法4条に基づき、特定デジタルプラットフォーム提供者(以下「特定デジタルプラットフォーマー」)を定める政令が、同日施行され、同政令は、特定デジタルプラットフォーマーとして指定される規模を、物販総合オンラインモールは3,000億円以上の国内売上、アプリ(ソフトウェア)ストアは2,000億円以上の国内売上とした。
さらに、今年(2021年)4月1日、経済産業大臣は次の業者を特定デジタルプラットフォーマーに指定した。

物販総合オンラインモールの運営事業者

アプリストアの運営事業者

法の細則を定める施行規則も本年2月1日に施行されており、ガイドラインも定められ、デジタルプラットフォーム取引透明化法は、今年(2021年)4月から稼働した。

法は、巨大なデジタルプラットフォーマーに対する商品等提供利用者(デジタルプラットフォームに自分の商品やサービス情報を掲載してもらい、それらを消費者等に販売しようとする者)の保護が課題となっていることを鑑みて制定されたものである。
(1条。以下、特に明記がないかぎり、本文記載の条項は法の条項)

中小企業が大多数を占める商品等提供利用者に対して圧倒的な力を有する特定デジタルプラットフォーマーによって、一方的な取引条件、突然で合理的理由のない解約、苦情・クレームの不適切な取扱い、必要な情報の非公開等、優越的な関係によって生まれやすい不公正・不透明な状況が生じないようにするため、法は制定されたといえる。

 

特定デジタルプラットフォーマーとは

インターネット等を通じて、商品やサービスを販売する者が扱う商品やサービス情報を、多数の者に提供するサービスがデジタルプラットフォームであり(法2条)、経済産業大臣によって指定された、一定以上の規模を有するデジタルプラットフォームの提供者が、特定デジタルプラットフォーマーである(法4条)。
2021年4月19日現在、上記記載の各業者が特定デジタルプラットフォーマーとして指定されている。

特定デジタルプラットフォーマーに課された義務

取引条件等の開示義務(5条)

特定デジタルプラットフォーマーは、商品等提供利用者(出店業者)に対し、次の事項を開示しなければならない(5条2項1号)。

  1. デジタルプラットフォームの提供を拒絶する場合の判断基準
  2. 特定デジタルプラットフォーマーの指定商品等の購入を商品等提供利用者に要請する場合は、その内容と理由
  3. 一般利用者が検索する商品等情報に特定デジタルプラットフォーマーが順位をつけて表示する場合は、順位を決めるための主要基準(なお、商品等提供利用者が支払う広告費その他の金銭の支払が検索順位に影響するときは、その旨開示しなければならない)
  4. 特定デジタルプラットフォーマーが、商品等の売上推移データ、その他の商品等データを取得・使用する場合は、そのデータの内容、取得・使用の条件
  5. 商品等提供利用者が特定デジタルプラットフォーマーに対して苦情や協議申出をする方法

など

一般利用者(消費者等商品等提供利用者以外のデジタルプラットフォーム利用者)に対しても、特定デジタルプラットフォーマーは、次の事項を開示しなければならない(5条2項2号)。

  1. 商品等に検索順位をつける場合は、順位を決める主要基準(商品等提供利用者が支払う金銭が影響するときはその旨を含む)
  2. 特定デジタルプラットフォーマーが、一般利用者による商品等の検索・閲覧・購入データを取得等する場合は、そのデータ内容、取得・使用条件

など

さらに、次の事項も原則として開示しなければならない(5条3項、4項)。

  1. 商品等提供利用者に提供条件によらない取引の要請をするときは、その内容と理由
  2. 継続利用している商品等提供利用者に対して、その一部の商品等についてデジタルプラットフォームを提供することを拒絶するときは、その内容と理由
  3. 商品等提供利用者に対する取引条件の変更をするときは、その内容と理由
  4. 継続利用している商品等提供利用者に対して、特定デジタルプラットフォーム提供の全部の拒絶をするときは、その理由(3及び4は、変更、拒絶を実施する前に開示しなければならない。4項) 

など

※これらの開示を行わなかった場合、経産大臣は、特定デジタルプラットフォーマーに対して開示勧告ができ、勧告は公表される。
勧告に従わなかった場合、経産大臣は、開示命令を出すことができ、命令も公表される(6条)。

体制構築義務(7条及びガイドライン)

特定デジタルプラットフォーマーは、経産大臣の定めたガイドラインにある次の諸点等実行のための仕組みを構築する必要がある(7条、ガイドライン)。

など

※経産大臣は、特に必要な場合は特定デジタルプラットフォーマーに必要措置を講ずべき勧告ができ、勧告は公表しなければならない(8条)。
利用者は、経産大臣に、必要な措置を特定デジタルプラットフォーマーがとるべきことの求めを申し出ることができる。
特定デジタルプラットフォーマーは、その申出を理由としてプラットフォームの提供の拒絶その他の不利益な取扱いをしてはならない。
不利益な取扱いがあった場合、経産大臣はそれをやめるよう勧告し、その勧告も公表される(10条)。

公正取引委員会への請求(13条)

経産大臣は、特定デジタルプラットフォーマーの行為が、法に違反し、それが、例えば、優越的地位の濫用等、独占禁止法に違反していると認めるときは、公正取引委員会に適当な措置をとるべきことを求めることができる。
ただし、次の場合は、措置をとることを求めなければならい。

など

罰則

上記、取引条件等の開示義務(5条)の開示命令に従わなかった者は、100万円以下の罰金(23条)。
当該行為者のみならず、その法人に対しても同じ罰金(25条)。

法制定の布石 公正取引委員会のアンケート調査

2019年1月から3月にかけ、公正取引委員会は、オンラインモール運営事業者(アマゾン、ヤフーショッピング、楽天等)との取引に関し、出店業者にアンケート調査を実施した。
その調査結果は、2019年10月に公表され、次の実態等が示された。

出店業者の資本金もしくは出資金
オンラインモール運営事業者によって規約が一方的に変更されたことがあったと答えた出店業者の割合
規約の変更に出店業者にとって不利益な変更があったと答えた出店業者の割合
規約の変更に対する十分な時間はなかったと答えた出店業者の割合
規約の変更によって事業活動に深刻な影響を受けたと答えた出店業者の割合
オンラインモール運営事業者から消費者への配送料に関して要請や指示(以下「要請指示」)を受けたことがあったと答えた出店業者の割合
要請指示の説明に納得できなかったと答えた出店業者の割合
要請指示に従わなかった結果、同意していないにもかかわらず一方的に利用料やその他金銭を徴収されたと答えた出店業者の割合
要請指示に従わなかった結果、オンラインモール上の商品の表示位置や表示方法、検索結果について不利な取扱いを受けたと答えた出店業者の割合
オンラインモール運営事業者から不合理と感じるサービス等への利用料、根拠がないと感じる金銭の支払い(例えば、ポイント還元や販売セール等での合理的な範囲を越えた原資負担金)を要求されたことがあったと答えた出店業者の割合

これらの調査結果は、オンラインモールへの出店業者の8割近くが資本金1000万円以下という中小規模であること、規約が一方的に変更された。
規約変更に出店業者にとって不利益な変更があった。配送料に関する要請指示があった。要請指示の説明に納得できなかった、などと答えた出店業者の割合が相当高い実態を示している。

特に、オンラインモール運営事業者によって取引規約が一方的に変更されたことがあったと答えた出店業者の割合は、50%~93%にも達しており、出店業者に対して優越的な地位を有するオンラインモール運営業者による公正・公平な取引が実現できていない可能性が示唆されている。

このような状況が法の制定を後押ししたといえる。

具体的にも、2019年に楽天が商品の一律送料無料化措置を発表し、これに対し公正取引委員会が調査を行ったケースがあった。
ごく最近でも、アマゾンが通販サイトの出店業者に対し、2000円以上の注文について配達状況の追跡可能な配送方法を利用する率が95%未満になると、同様の商品を出荷できなくなり、再開するには改善計画の提出とアマゾンの承認が必要とするシステムを出店業者に説明していること、この場合、出店業者の配送料負担が増加する場合があること、他方、アマゾンは、長期的には出店者の利益につながる等と説明していることなどが報道(※)されている。

「アマゾン、出店者に「配送追跡」要求 トラブル防止で」

法の施行前後にも、巨大なデジタルプラットフォーマーと出店業者の公正な関係を問うケースは生じ続けている。

抑制的対応が法の理念

法は、基本理念として、透明公正な取引実現についてはデジタルプラットフォーマーの自主的な取り組みを基本とし、国の関与は必要最小限にするとしている(3条)。
法は、国の関与が抑制的に行われるという建て付けにしている。
他方、法によって新たに作られたルールの中でも具体的なポイントは、以下のルールができたことと考えられる。

デジタルプラットフォームが巨大インフラとして存在する社会の中で、これらを具体的にルール化した意味は大きく、法は、抑制の建て付けの中にありながらも、透明で公正なインターネット取引を促進する力になり得ると考えられる。

執筆者プロフィール

中島成総合法律事務所 代表

東京大学法学部卒。
裁判官(名古屋地方裁判所)を経て1988年4月弁護士(東京弁護士会所属)。
日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。

など著書多数。
講演多数。

主な取扱業務は企業法務、事業再生、不動産賃貸借