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富士山

2021年のご挨拶

2021年1月15日
著者: 竹洞 陽一郎

皆様、新年あけましておめでとうございます。
新型コロナウィルス感染拡大に伴い、世の中が大きく変わりました。
まずは、皆様が、無事に2021年の大晦日を迎えられるように祈願しております。

地方分散の時代へ

今までの東京一極集中が崩れて、地方へと企業や人が移転していく中で、地方自治体の役割が大きくなり、地方分散の時代へと突入したと思います。
地方への分散を可能にしたのは、インターネットの存在と、情報通信技術です。
昨年は情報通信技術を活用した企業が大きく業績を伸ばしました。

よくアメリカ企業で働いていた日本人の間では、「働くなら給与の高いアメリカ企業、住むなら日本」と言われていました。
それが日本の場合は、「稼ぐなら東京、住むなら地方」でした。
東京での給与額はそのままに地方に移転できるのであれば、当然、生活の質が高い地方に移転するでしょうから、地方移転の傾向は拡大し続けると予想されます。

インターネットの「速度」に関する誤解

そうは言っても、全てが東京から移転するわけではないでしょう。
ITシステムは、クラウドのプラットフォーム上に移行した企業が多いので、データセンターはそのままに、東京を中心とした拠点を当面は利用しそうです。
しかし、人は地方へ移転すると、サーバとユーザとの間のネットワーク距離が伸びる事になります。

ネットワーク距離が伸びるということは、経由するネットワークのノードの数もそれなりに増えます。
途中経路のノードでトラフィックが逼迫してパケットロスが生じれば、当然ながら、レスポンスは遅延します。
ラストマイルのところが光ファイバーではなく、メタルであったり、分岐していたりすれば、当然ながら、そこでも遅延します。

東京でも、地方でも、建物の1Fまでは光ファイバーが通っているが、建物自体の配管の都合で、部屋の中まではVDSLでメタル回線で通信しているという所も多いです。
2000年代に建てた建物は、一部、コストを抑えるために、回線用の配管を壁に埋めずに、電話回線やケーブルTVの回線を直接壁の中に埋め込んだものがあり、そういう建物は後から光ファイバーを通す事ができません。
東京と地方の違いはネットワーク・インターネットに関するリテラシーで、地方はそれらに関するリテラシーが低いために、高速な回線に引き直す事なく既存のインフラを利用しているユーザが多いです。

2020年12月21日、総務省は、家庭向けインターネット接続サービスの透明性を向上させるため、新たな有識者会議を設置すると発表しました。
ユーザが、広告で表示された速度を得られないケースが多く、苦情が多く寄せられていたのが理由だそうです。
2015年に、総務省は、携帯回線を対象にした「インターネットのサービス品質計測のあり方」の有識者会議を設置しましたが、それと同じ流れです。

しかし、実際には、携帯網が遅いわけではなく、ユーザが利用しているWebサイトやアプリの性能が悪くて、遅かったわけです。
それは、今回の家庭用の有線インターネット回線も同様です。
ユーザにとっては、それは分かるはずもなく、インターネットの速度計測サービスの結果を見て遅いと思うのでしょう。

しかし、実際は、インターネットの速度計測サービス自体のサーバが遅延しているので、正確なデータではありません。

以下のグラフは、同じ回線について、同じ時間帯に、Googleの「ブロードバンドテスト」とCloudflareの「ブロードバンドテスト」を行った結果です。
同じ回線、同じ時間帯なのに、全く結果が異なります。
Cloudflareのダウンロード結果は、Googleの9倍に達しています。

これはサーバの混雑具合や性能、ネットワーク距離や経路の違いから生じています。
しかし、一般の人々に、この事が分かるでしょうか?
インターネットの回線事業者にとっては、Googleのブロードバンドテストは、まさに不当表示であり、信用毀損罪に該当します。

Googleが提供している「ブロードバンドテスト」での結果
Cloudflareが提供している「ブロードバンドテスト」での結果

これを「インターネットの回線業者にとって不幸な話」で終わらせますか?
今までは、ユーザが、自社サービスが遅延していても「回線が悪い」と誤解してくれていたので、それで済みましたが、本当にこのままで良いのでしょうか?
Webサイトの表示速度が遅くなるほどに、売上が下がるのは、もう日本でも周知の事実となっています。

自社のサービスが地方で遅く表示されてしまうという事は、その地方の市場やユーザ開拓を放棄したに等しいのです。

地方でのユーザ体験の遅延が事業収益を押し下げる

人や企業が地方へと移転するのであれば、地方での表示速度を確保しなければ、当然ながら売上が下がります。
地方での計測の重要性は以前から知っていたので、Spelldataは、昨年、大阪、福岡と、2箇所に計測センターを開設しました。
今年は、札幌、新潟に計測センターを設ける予定です。

昨年の夏ぐらいから年末に掛けて、福岡に足繁く通い、現地の携帯網の速度テストを行ったり、光回線のマーケットシェアの調査をしたり、計測センターの開設のための物件を探したりしました。
その時に、不動産業者さんが話してくれた事が印象的でした。
「●●●●や●●●のサイトがもっと速いと仕事がしやすいんだけど… どうして、凄く遅いままにしてるのかなぁって思いますよ。有名な企業なのに。」

その不動産業者の方が仰った2社は、速度表示改善で頑張っている企業です。
一社は、速度表示を改善したとプレスリリースを出しましたし、もう一社は、よくパフォーマンス改善で講演したり発表している会社です。
しかし、双方共に、計測はLighthouseや、東京のAWSにしか計測ノードがないサービスを利用しています。

実際のインターネット経由での速度を知らない。
しかし、自分たちは高速化を頑張っているから速いと信じている。
それに、ユーザや、不動産会社は、滅多には「サイトが遅い」等と苦情は言ってくれません。

知らずしらずの内に、品質の悪化に気づかず、機会損失を生み出している典型的な例です。
確かに計測してみると、東京の表示速度に比べて、福岡での表示速度は遥かに遅延していました。
地方での表示速度の遅延を知らないが故に、地方での売上が悪いという傾向は、今後、人や企業が地方へと移転するほどに拡大すると予想しています。

統計的品質管理によるWebパフォーマンス管理の普及の年に

都市ごとにWebの表示速度が異なるというのは、1995年にアメリカでKeynote SystemsがSynthetic Monitoringを開始した当初より知られていた事です。
だからこそ、CDNが誕生したのですが、CDNを利用しても、その都市ごとの表示速度の違いを完全に埋められるわけではありません。
それどころか、1ページのWebページを構成するドメイン数が増えるほどに、それぞれのドメインのパフォーマンスに影響を受けて、表示速度品質は複雑になりました。

Lighthouseで計測しても、東京のAWSから計測しても、それらの値は、真のユーザの体験を計測はしてくれません。
Real User Monitoringは、アクセスしてくれた人の表示速度しか得られません。
Real User Monitoringは、地方については、どうしてもアクセス数が少ない傾向になりますし、Cookieベースの実装が殆どなので、初回訪問のデータが取れません。

Webを使って事業をしているのであれば、能動的に、各地方都市から、24時間365日計測を行い、高速さを維持するために品質管理するしかないのです。

上述の2つの会社さんには、実は、以前、請われて社内セミナーで講演したり、商談でお話もしたことがあります。
しかし、「計測に投資する」重要性は理解してもらえませんでした。

残念ですが、私達は、人を変えることはできません。
私どもでできるのは、事実をデータを基にお伝えする事です。
Webパフォーマンス計測に対する投資や高速化による業績拡大より、費用を節約する方を選ぶというのであれば、それ以上私達がお役立ちできることはございません。

しかし、御社が、統計的品質管理の有用さ、Webサイトの顧客体験の重要さを理解して頂けて、そこに投資しようと決められたなら、弊社の既存のお客様にお役立ちしたのと同様に、御社にお役立ちできることを保証いたします。

弊社のお客様方は、Webパフォーマンス改善で、売上を30%前後上昇されています。
「品質の力」は製造業だけではなく、Webサイトにも有用であることを、より多くの企業の皆様に知って頂きたいです。
そして、私達は、2021年を、日本においても、海外同様に、統計的品質管理によるWebパフォーマンス管理が普及する端緒の年にします。