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弁護士 中島成 先生

楽天送料無料化と改正民法(定型約款)及び独占禁止法(優越的地位の濫用)との関係

2020年5月8日
著者: 弁護士 中島 成

2020年4月1日に改正民法債権法が施行されました。
新型コロナウイルス感染拡大の方に世間の注目が集まっているので、あまり話題になっていませんが、各新聞紙上では記事になって取り上げられています。

具体的に、改正民法債権法はどのような影響があるのか、楽天の一律送料無料化措置を例にして、弊社顧問弁護士の中島総合法律事務所 代表の中島先生に解説して頂きました。

一律送料無料化発表と現在に至る経緯

2019年1月、楽天は、アマゾンに対抗するため(※1)、楽天市場で税込3,980円以上の購入金額になる場合は一律送料無料とすること(以下「一律送料無料化措置」)を出店業者に求めた。
出店業者の一部は出店業者に負担を強いるものとして反対し、公正取引委員会も、楽天の一律送料無料化措置が独占禁止法で不公正な取引方法として禁止される優越的地位の濫用(独占禁止法2条9項5号ハ、3条)(※2)に当たる可能性があるとして、2020年2月10日に楽天に立ち入り調査を行った。

第二条 この法律において「事業者」とは、商業、工業、金融業その他の事業を行う者をいう。事業者の利益のためにする行為を行う役員、従業員、代理人その他の者は、次項又は第三章の規定の適用については、これを事業者とみなす。

  1. この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
    1. 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
      1. 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
      2. 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
      3. 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み、取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じ、その他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。
第三条 事業者は、私的独占又は不当な取引制限をしてはならない。

※1 アマゾンの世界における連結売上高は2019年(1月~12月)で2,805億2,200万ドル(1ドル108円とすると30兆2,964億円)で、2018年の2,328億8,700万ドルに比して20.45%増。
純利益は、2019年は115億8,800万ドル(1ドル108円とすると1兆2,515億円)で、2018年の100億7,300万ドルに比して15%増(Amazon annual report 2019より)。
これに対し、楽天の連結売上高は、2019年(1月~12月)で1兆2,639億円で、2018年の1兆0,278億円に比して23%増であるものの、営業費用の増加により2019年の営業利益は2018年に比してマイナス。
また投資損失の拡大によって2019年は330億6,800万円の当期損失を計上している(楽天2020年2月13日決算短信より)。

※2 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定・変更し、又は取引を実施すること。

それでも楽天は、一律送料無料化措置を2020年3月18日に開始するとしたため、公正取引委員会は同年2月28日、東京地方裁判所に緊急停止命令(独占禁止法70条の4)を申し立てた。

第七十条の四 裁判所は、緊急の必要があると認めるときは、公正取引委員会の申立てにより、第三条、第六条、第八条、第九条第一項若しくは第二項、第十条第一項、第十一条第一項、第十三条、第十四条、第十五条第一項、第十五条の二第一項、第十五条の三第一項、第十六条第一項、第十七条又は第十九条の規定に違反する疑いのある行為をしている者に対し、当該行為、議決権の行使若しくは会社の役員の業務の執行を一時停止すべきことを命じ、又はその命令を取り消し、若しくは変更することができる。

すると楽天は、新型コロナウィルスによる影響で対応が遅れる可能性があることを理由に、一律送料無料化措置を延期することとし、公正取引委員会も2020年3月10日、緊急停止命令申立を取り下げた。
楽天はさらに、送料無料化措置の延期は求めない出店業者については2020年3月18日から送料無料化措置を開始する一方で、メール便や宅配便に応じた定額の金額を一定期間支給する支援措置を採ることとした。

2020年5月5日現在、楽天は、同月(5月)に再度方針を発表するとしており、公正取引委員会も不公正取引の該当性について調査を続けている。

布石 ~公正取引委員会によるデジタル・プラットフォーマーの実態調査~

2018年7月、公正取引委員会・経産省等によってデジタル・プラットフォーマーの取引環境整備の検討会が立ち上げられ(※3)、取引の透明性・公正性実現を目的に、公正取引委員会は2019年1月から3月にかけてオンラインモール運営事業者(アマゾン、ヤフーショッピング、楽天等)との取引に関する出店業者へのアンケート調査等を行った。

※3 2020年2月、「特定デジタル・プラットフォーマーの透明性及び公正性の向上に関する法律案」が閣議決定され、現在開催中の通常国会に提出されている。
この法案は、取引条件等についての情報開示・変更時の事前通知義務付け、自己評価を付した報告書の経産大臣への提出、経産大臣による評価結果の公表、独禁法違反のおそれがある場合の公正取引委員会への対処要請等を内容とする。

さて、公正取引委員会による調査結果は、2019年10月に公表され、そのアンケート調査(詳細)によれば次の実態等が示されている。

出店業者の資本金もしくは出資金
オンラインモール運営事業者によって規約が一方的に変更されたことがあったと答えた出店業者の割合
規約の変更に出店業者にとって不利益な変更があったと答えた出店業者の割合
規約の変更に対する十分な時間はなかったと答えた出店業者の割合
規約の変更によって事業活動に深刻な影響を受けたと答えた出店業者の割合
オンラインモール運営事業者から消費者への配送料に関して要請や指示(以下「要請指示」)を受けたことがあったと答えた出店業者の割合
要請指示の説明に納得できなかったと答えた出店業者の割合
要請指示に従わなかった結果、同意していないにもかかわらず一方的に利用料やその他金銭を徴収されたと答えた出店業者の割合
要請指示に従わなかった結果、オンラインモール上の商品の表示位置や表示方法、検索結果について不利な取扱いを受けたと答えた出店業者の割合
オンラインモール運営事業者から不合理と感じるサービス等への利用料、根拠がないと感じる金銭の支払い(例えば、ポイント還元や販売セール等での合理的な範囲を越えた原資負担金)を要求されたことがあったと答えた出店業者の割合

この結果は、

また、

などと答えた出店業者の割合が、アマゾンやヤフーショッピングに比べ、楽天市場で相対的に多いことを示していた。

そして、このアンケート調査が行われたのが2019年1月から3月であり、上記のような公正取引委員会による実態調査の結果が同年10月に最終公表されている。
翌2020年2月にはプラットフォーマーの公正性等向上のための法案が閣議決定されている。
このような流れがあったことが、公正取引委員会による2020年2月の楽天への立ち入り調査、そこから僅か18日後の緊急停止命令申立(16年ぶりの申立で、優越的地位の濫用を理由としては初めて)を後押ししたものと考えられる。

改正民法(定型約款)と楽天市場出店規約

公正取引委員会による緊急停止命令申立より後である2020年4月1日、改正民法(債権法)が施行された。
改正民法は、いわゆる約款についての規定を初めて設け、契約の一方(以下「A」)が予め準備した契約条項で、不特定多数を相手方とし、取引内容の全部又は一部が画一的であることが契約当事者双方に合理的な取引に使われる契約条項を「定型約款」と名付けたうえ、

  1. 社会通念上相手方の利益を一方的に害する定型約款の条項は無効(同法548条の2)
  2. Aが一方的に定型約款を変更できる場合は、変更の必要性、変更内容の相当性等に照らし合理性が認められる場合等に限られる(同法548条の4)

ことを定めた。

なお、定型約款についての規定は、原則として、改正民法施行(2020年4月1日)より前に契約された約款にも適用される。

そこで、楽天と出店業者の間で締結される楽天市場出店規約が定型約款に該当するかを検討してみると、同規約は、楽天側が予め準備した契約条項であり、不特定多数の出店業者との取引に使用される。
また楽天市場の2019年9月現在の出店業者数が4万8000を超えることを考えれば、個別出店業者ごとに出店取引の内容をアレンジすることは困難で、画一的な取引態様とすることに合理性が認められる。
また定型約款についての規定は、単に企業と消費者間の取引だけでなく、企業と企業の取引にも適用される。

したがって、楽天市場出店規約は、改正民法における定型約款に該当すると考えられる。

そして楽天の送料無料化措置は、楽天市場出店規約、又は楽天市場出店規約と同様に定型約款と解される規約の実質的な変更を伴うものと考えられるところ、定型約款においては、

  1. 相手方に一方的に不利な契約条項は無効とされ、
  2. 合理性がなければ楽天が一方的に変更することはできない。

そのため、送料無料化措置の有効性については、単に独占禁止法のみならず改正民法上も法的な問題を生じさせる。

この点、楽天市場出店規約をみると、規約28条に「楽天は、必要と認めたときに、出店業者へ予告なく本契約及び本契約に附随する規約の内容を変更することができる」とされている。
また26条2項で「楽天は、事由のいかんを問わず、1ヶ月前までに書面で相手方に通知することにより本契約を解約することができる」とされている。
しかし、楽天市場出店規約が定型約款であれば、原則として改正民法が適用されるから、一方的な変更には相当性、必要性、合理性が要件となり、送料無料化がこの要件を満たしているかが争われ得る。

仮に変更に従わない店舗との出店契約を規約26条2項で解除したとすれば、一方的な規約変更は許されないとか、継続的な出店契約を理由のいかんを問わず1ヶ月前通知で解除できるとする規約26条2項は出店業者に一方的に不利で解除は無効などと認定される可能性がある。

楽天が、一律送料無料化措置をとりやめ、無料化措置(又は商品代に送料が含まれる措置)の延期を求めない出店業者についてだけ、2020年3月18日に同措置を開始したのは、単に優越的地位の濫用についての公正取引委員会への対応のみならず、改正民法上の争点も意識したからと推察される。

優越的地位の濫用と送料無料化

独占禁止法は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益となるように取引の条件を変更し、又は取引を実施することは、不公正な取引方法に該当するとして禁止している。

楽天の送料無料化措置(又は商品代金に送料を含ませる措置)は、対アマゾンの競争力を得ることを目的としているようであり(以下「送料無料化の目的」)、ひいては楽天市場出店者の売上に貢献する可能性がある。
しかしその一方で、送料を実質的に消費者から出店業者に転化し出店業者の利益を減じるものともいえる。

また、送料無料化措置によって楽天市場自身の対アマゾンとの競争力は強化されるとしても、楽天と楽天市場の個々の出店業者との関係では、出店業者に不利益を甘受させる面があると言い得る。
出店業者からすれば、予め計算できない変更措置であり、上記したアンケート結果にみる出店業者の事業規模からしても、楽天市場への出店継続に与える影響を懸念して送料無料化措置を受け入れざるを得ない出店業者も多いと考えられる。
したがって、送料無料化の目的があるとしても、送料無料化を一律に出店業者の合意なく強行した場合は、優越的地位の濫用に該当する可能性が高いと考えられる。

他方、現時点で楽天は、一律送料無料化措置を止め、送料無料化措置延期を自らは求めない出店業者についてだけ、無料化措置を開始している。
これは送料無料化に同意するかどうかの自由を出店業者に与え、合意の上で同措置をとっている形を作るためのものである。

また、出店業者に不利益を与える措置であっても、その措置によって通常生ずべき損失を楽天が負担するのであれば出店業者に不当な不利益を与えたとはいえない。
現在、楽天がメール便や宅配便に応じた定額の金額を一定期間支給する支援措置を採っているのは、この点に着目したものである。

そのため、現在のこの状態を前提とし、これが優越的地位の濫用に該当するか検討すると、該当しない可能性が高いと考えられる。

ただし、該当する可能性がないとはいえない。
なぜなら、出店業者に送料無料化への同意権を与えた形にしたとしても、送料無料化を受け入れた出店業者との対消費者での競争上から、同意せざるを得ない状況も生じ得る。
また、楽天は再度方針を発表するとしており、支援措置による損失補填が打ち切られるか、継続されるのか不明である。
継続されるとしても、いつまで続くかは不明で、またいつまで続ければ合理的な補填を終えたといえるかもはっきりとはしていないからである。

迫られる判断

楽天は、2019年12月決算において営業費用増や投資損失によって多額の最終赤字を計上している。
対アマゾンの競争力強化が楽天にとって必要であるとしても、今後出店業者への損失補填をどれだけ続けられるか等、改正民法と独禁法対応において、楽天は容易ではない判断を今、迫られている。

執筆者プロフィール

中島成総合法律事務所 代表

東京大学法学部卒。
裁判官(名古屋地方裁判所)を経て1988年4月弁護士(東京弁護士会所属)。
日本商工会議所・東京商工会議所「会社法制の見直しに関する検討準備会」委員、東京商工会議所「経済法規・CSR委員会」委員等を務める。

など著書多数。
講演多数。

主な取扱業務は企業法務、事業再生、不動産賃貸借