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電車の中ではスマートフォンで新聞を読む

新聞業界への提言

2016年11月29日
著者: 竹洞 陽一郎

高校生のバイトは新聞配達

私は、高校の三年間、青森県の東奥日報の夕刊配達で学費の一部を賄いました。
16歳の時に貰った、東奥日報の文字が入ったボールペンを、もう32年、大切に使っています。

新聞配達は、雨の日も雪の日も、休まず配達しなければいけないので、正直辛いものがありました。
高校時代、高校の授業を欠席しても、新聞配達は休みませんでした。
休んだのは、一年生の時に、体育の授業で骨折して、自転車に乗れなかった時だけです。

貧困家庭だったため、新聞を取っていなかったのですが、新聞配達をしていたお蔭で、無料で当日の新聞を貰えました。
活字に飢えていた私は、新聞を目を皿のようにして読んだものです。
そして、多くの事を学びました。統計学について興味を持ったのも、当時、現代統計実務講座の広告が東奥日報に載っていたからです。

私が育った八戸は、冬に路面が凍結するので、誰も自転車に乗りませんが、私は新聞配達があるので乗っていました。
それで、相当危ない目にもあったのですが、なんせ、当時は、他にバイト先が殆どありません。
毎月9,000円をアルバイト代として頂きましたが、額の大小は別として、非常にありがたかったです。

新聞奨学生に応募して大学進学

その後、私は、大学進学のための資金が無くて、当時在学していた青森県立八戸北高校に、新聞奨学生を募集に来ていた毎日新聞社の担当の方に会って、応募することにしました。
同級生の何人かは、日本経済新聞社の新聞奨学生に応募して、入学金の援助を得て進学しました。

新聞奨学生として働いた日々は、正直辛いものがありました。
毎日、朝2:30には、配送のトラックがやってきて、新聞束を投げ下ろす音で目が覚めます。
そして、新聞に前日の夜に用意しておいた広告を一部一部、手で入れて準備を整えて、大体3時半ぐらいには配達に出ます。

私の所属していた配達所は、本郷郵便局のすぐ隣でした。
私の配達地域は、本郷五丁目から西片二丁目、そして向丘一丁目にかけてで、軒数は200軒ほどです。
それを2時間かけて配達し、それから朝食を食べるという生活でした。

配達自体は辛いものがありましたが、配達所には、同い年の大学生が5人いました。
配達時は、読売、朝日、日経、産経と、それぞれの新聞奨学生が自転車やバイクに乗って配達していたので、会社は違っても、何か姿を毎朝見る内に親近感というか、連帯感みたいのを感じました。
それが心の支えになりました。

私は一年で毎日新聞の新聞奨学生を辞めて、昼間働いて通学しました。
入学金を先払いしてくれた新聞奨学生という制度が無ければ、進学は出来なかったのは確かです。 毎日新聞には心から感謝していますし、他の新聞社も同様にこの制度を用意してくれた事を素晴らしいと思っています。

新聞を読むことが社会人として必須だった20代

1990年代、私が20代の頃、新聞を読む事は、新人社会人として必須事項と言われていました。
毎日新聞の配達をしていた私ですが、新聞奨学生を辞めて、一人暮らしを始めてからお金を出して読んでいたのは、読売新聞です。
たまたま、住んでいたアパートに拡張営業で配達員の人が来たので、拡張営業の辛さを身に沁みて理解していた私としては断りづらかったのです。

読売新聞から学んだ事は多いです。

まず、人生相談のコラムから多くを学びました。
また、社説からも多くを学びました。
週に一回掲載される読書欄で紹介された本で興味が惹かれた本を、食費を削ってでも買い漁って読みました。

当時は、インターネットがまだ一般公開されていない時代です。
情報は、雑誌か新聞から得るのが一般的でした。
当時の新聞は、ニュースを報じるというだけでなく、教養を身につける上で重要なポインタとなる社会的責務を負っていたと思います。

新聞で最新情報を追うことが重要だった30代

2000年代、30代になった時に、新聞を日本経済新聞に切り替えました。
インターネットの商用利用が解禁となり、ブロードバンドが徐々に普及してきた頃ですが、まだスマートフォンは存在しませんでした。
SNSも存在しませんでした。

ビジネスの最前線に立って仕事をするようになり、日経新聞を毎朝読んで、最新情報を取得することが職場でも重要視されていました。
今では、殆ど見掛けなくなってしまいましたが、新聞を縦に半分に折り曲げて、通勤の電車の中で読むのがビジネスマンの一種のステータスみたいになっていました。

日経新聞を読んで、色々な企業動向の最新情報を得て、それをビジネスに活かす事が出来ました。
仕事で、相当、活用させてもらいました。

また私生活でも、日経新聞を読んでいた事で、小・中・高校とずっと同じクラスだった同級生と再会することが出来ました。
日本経済新聞社の新聞奨学生になることを選んだ彼は、その後、日経新聞の配達所の所長になりました。
そして、偶然にも私が住んでいた文京区小石川の配達所の所長となり、たまたま領収書の印刷の中に私の名前を見つけて会いに来てくれたのです。

今、電車の中で、新聞を広げて読んでいる人がいない

さて、2016年の今、通勤時の電車の中を見回してみて下さい。
誰も、以前のように、新聞を縦に二つ折りにして読んでいる人は居ない事に気づきませんか?
誰もが、スマートフォンを熱心に操作して何かを読んでいます。

紙としての新聞は、狭い空間では取り扱いが難しいです。
だからこそ、縦に二つ折りにして、邪魔にならないように、取り回しがしやすいようにして、読んでいたわけです。
しかし、周囲の人には迷惑だったり、満員電車の中で読むのは無理があります。

スマートフォンであれば、周囲に迷惑をかけることはないですし、満員電車の中でも何とか見ることが可能です。
それに、スマートフォンであれば、SNSでの記事の共有も簡単です。
途中で読むのを止めても、スマートフォンを取り出すだけで、続きを簡単に読むことが出来ます。

私は、新聞が果たしてきた重要な役割が減じてきているとは思いません。
インターネット上で、怪しい信頼性の低い情報が氾濫する中で、信頼性の高い情報を届けるメディアの役目は、逆に重要になっていると考えます。
しかし、新聞社の皆さんは、売上部数の低下を嘆きます。

違うのです、主役が紙の新聞からオンラインの新聞になったのです。

情報過多は今後も増々進行し、人々の自由時間はより少なく細切れになっていき、しかし情報の取得の重要性は増大していく一方です。
新聞が、信頼性の高い、情報を発信していくのは、より一層社会的に価値があることなのです。
情報過多により、紙の新聞では、取材して得た情報の全てを発信することは難しくなっているのは痛感されているはずです。

紙の新聞の良さは、自分の興味がある・なしに関わらず、様々な情報が目に入ってくる点です。
縦に二つ折りにして読むよりは、テーブルの上で広げて、全体を眺めるようにして読む方が、思わぬ気づきや、知らない情報を得られる良さがあります。
しかし、現代社会においては、そんな余裕を許さない程に過密で、多忙で、多様です。

見出しや概要だけをさっと目を通して、自分の興味のある記事を次から次へと拾い読みしていく。
それが、現在のスマートフォンで記事を読む読者のスタイルではないでしょうか。
だから、発行部数を追いかけても意味が無いのです。そもそも、紙の新聞を人々が求めていないからです。

収益モデル変革の時

ところが、多くの新聞社は、未だに紙が主役で、Webが脇役の収益モデルです。
それでは、売上が下がって当然だと思うのです。
紙の新聞の需要は減り、人々はスマートフォンで記事を読みたいからです。

「Webは無料で提供せざるを得ない、だから広告を入れる」と考えている新聞社も多いです。
しかし、欧米の新聞社がオンラインを課金対象にシフトしている事を是非鑑みて頂きたいのです。
幾つかの日本の新聞社は、既にオンラインで記事を読むのに課金をしています。

「オンラインを課金モデルにしたら、読者数が減ってしまうのではないか」と恐れる気持ちは分かります。
AmazonのCEOのジェフ・ベゾスは、「常に顧客中心に考える」事の重要性を訴えました。
読者がオンラインでの記事の閲覧を望むなら、そちらを主体に考えるべきで、そして、それに対して堂々と課金すべきなのです。

ジェフ・ベゾスは、電子書籍リーダーのKindleを発売して、このように述べています。

本を読むことに私たちは慣れていますが従来の本を読むという経験は、完璧なものではありませんでした。
慣れているがゆえに、欠陥に気づかないのです。
一度キンドルを使って、従来の本に戻ると、もどかしく感じるようになります。

新聞も同じです。
私達は、スマートフォンで記事を読む事に慣れてしまい、もう紙で新聞を読むことがもどかしいのです。
だから、もう一度書きます。紙の新聞の発行部数は、最早、経営の指標にはならないのです。

ワシントン・ポストを復活させたジェフ・ベゾス

そんなジェフ・ベゾスが、2013年8月5日、凋落したワシントン・ポストを買収して、見事に復活させた事は、新聞業界にいらっしゃるのであればよくご存知でしょう。

Digidayは、ワシントン・ポストの復活の要因をHow The Washington Post leapfrogged The New York Times in Web trafficという記事で以下のように分析しています。

その結果、ワシントン・ポストはオンライン購読者数において、ニューヨーク・タイムズを2015年10月に追い抜いて7,000万人まで増加させたのです。

ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストのオンライン購読者数の推移

(BI Intelligenceの記事より)

Webサイトの高速化に注力する欧米の新聞社

ジェフ・ベゾスが打った手の内、ニュースの投稿間隔の短縮化や購読料の割引については、各社の事情に依存する事なので、私からは申し上げる事はありません。
新聞業界の皆さんに注目して頂きたいのは、サイトの読み込み時間の高速化です。
ワシントン・ポストは、特に、スマートフォンサイトを高速化することによって、デスクトップサイトの読者が6%増に対して、スマートフォンサイトの読者数を59%増やしました。

表示速度が、読者数獲得に有利に働くのは、ファイナンシャル・タイムズの技術者たちも確認済みです。
ファイナンシャル・タイムズの技術部門のブログ「Engine Room」にA faster FT.comという記事が2016年4月4日付けで掲載されています。

彼らは、表示速度の影響を7日間と28日間でどのくらい変わるのかを比較してみました。
すると、以下の表のように、遅延するほどに、離脱率が高まっている事が判明しました。
しかも、長期的に遅延が続くと、離脱する率が上昇しています。

異なる遅延秒数での実験対象間での記事閲覧の中断の率の平均
読込時間7日間での影響28日間での影響
1秒の遅延-4.9%-4.6%
2秒の遅延--5.0%
3秒の遅延-7.2%-7.9%

この比較実験を利用頻度が高いユーザと、低いユーザで分けたのが以下の表です。
これを見ると、利用頻度の低いユーザは、高いユーザより、遅延すると大きく離脱していく事が分かります。
つまり利用頻度が高いユーザは遅延を我慢するのに慣れているのに対して、低いユーザは遅延に我慢出来ないのです。

異なる遅延秒数での実験対象間での記事閲覧の中断の率の平均
読込時間利用頻度が高いユーザ利用頻度が低いユーザ
7日間28日間7日間28日間
1秒-23.9%
2秒-6%-19.6%-31.1%
3秒-7.3%-8.4%

つまり、利用頻度の低いユーザは、より遅延に我慢できなくなって、より利用しなくなり、そして最終的には解約するという事を意味しているのです。
ニュースサイトにおいて、如何に表示速度が重要であるかは、これでご理解頂けたでしょう。

リターゲティング広告に頼ると自滅する

「それでも、リターゲティング広告などの広告収入を主たる収益として経営していきたい」と考えられる新聞社の方はいらっしゃると思います。
残念ながら、リターゲティング広告は遅延の原因であり、それが改善される見込みは無さそうです。

下記のグラフは、新聞社各社が利用している、とあるリターゲティング広告のパフォーマンスです。
最大で8秒遅延しているのが分かります。

リターゲティング広告のパフォーマンス

高速化の交渉を行ったのですが、以下の回答でした。

こちら、すべての広告主様に共通の条件にてご活用頂いており、弊社側の対応で、現状から時間を短縮することができません。

遅延すれば、読者は離れます。そして、収益が下がります。
より広告収入を増やすために、より多くの広告を表示させる。
そうすれば、更に遅延して、読者は減っていくのです。

待っていれば、技術革新や回線の高速化で広告が高速になるという期待を持っているのであれば、それは10年以上も前からメディア業界が頂いている幻想であると、はっきりと申し上げましょう。
殆どのオンライン広告は、遅延をし続けていて、高速化に興味を示したオンライン広告の事業会社は、ほんの僅かです。
遅延と読者減のデフレスパイラルを続けますか?

It isn't the strongest of the species that survive, nor the most intelligent but the ones most responsive to change.
(最も強い、最も賢い種が生き残るのではない、最も変化に対応できる種が生き残るのだ)
— チャールズ・ダーウィン

上記のダーウィンの名言を引用するまでもなく、今、新聞業界は存亡の岐路に立たされています。
変化に対応できる余力がある内に、動きませんか?
高速化については、私がお手伝いできます。それが、私を進学させてくれた、新聞業界への恩返しです。