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脳の時間感覚

時間帯と年齢で変わるWebの表示速度感覚

2017年3月21日
著者: 竹洞 陽一郎

Webサイトの表示速度の重要性が、日本でも、徐々に認知されてきています。
世界基準では、「表示開始が0.5秒、表示完了が2秒以内」が目標値です。
この目標値を「速すぎる」と思われますか?

実は、時間帯や年齢によって、時間感覚は異なることが、科学調査から分かってきているのです。

時間帯で変わる時間感覚

皆さんは、「どうして朝は時間が足りないんだろう」と疑問に思った事がありませんか?
実は、朝の時間帯が、時間が足りなくなるのには理由があります。

ニューロンの活動が活発であると時間感覚が伸びる

2012年10月30日にミネソタ大学のGeoffrey Ghose氏とBlaine Schneider氏が発表した論文、"Temporal Production Signals in Parietal Cortex"によると、時間感覚は、脳のグローバルタイミング信号ではなく、作業に関連するニューロンの局所集団間の競合に左右されているそうです。
つまり、分かりやすく言うと、時間感覚は、常に一定ではなく、脳の活動レベルに依存しているという事です。

この事が、脳に傷を負った人や、パーキンソン病の患者が、時間間隔を維持するのが困難であることを理解する手助けになるそうです。

この研究の結果が、朝は時間があっという間に過ぎ去ってしまう感覚を説明してくれます。
多くの人にとって、朝、目覚めたばかりの時間帯は、脳の活動レベルが低いために、時間が実際よりも短く感じてしまうのです。

脳の活動レベルが上がると、時間は実際よりも長く感じられるようになります。
その最たるものは何かというと、命の危機に瀕したような場面です。

命の危機のような場面に出くわした人は、時間がとてつもなく引き伸ばされた感覚を味わうという研究レポートがあります。
(「なぜ『恐怖の時』時間を遅く感じるのか? :研究結果」)
これは、脳が「ターボモード」に入るためだと考えられていて、脳の活動レベルが最大限に引き上げられるため、時間感覚が引き伸ばされるわけです。

脳の活動が活発な時間帯にご用心

この事は、Webサイトの表示速度の改善で大きな示唆を与えてくれます。

これが、Webサイトの表示速度の時間帯によるバラツキと組み合わさると、どうなるでしょうか?
下のグラフのように、表示開始時間も、表示完了時間も、決して、一意の値には定まりません。
人の目で確認するのではなく機械で測定し、且つ、定常的に計測をしなければ、容易に認知バイアスに陥り、表示速度を見誤ってしまうのです。

表示開始と表示完了の24時間の推移

そして、ユーザの脳の活動が活発な時間帯は、通常よりも、表示速度が「遅く」感じられます。
ですから、そういう時間帯こそ、高速にWebページを表示させる仕組みや管理を行う事が重要になります。

年齢で変わる時間感覚

ジャネの法則

時間感覚は、年齢によっても変わります。
これは、皆さんも、経験上、ご存知かと思います。

これを初めに注目したのは、19世紀のフランスの哲学者、ポール・ジャネです。
甥で、心理学者である、ピエール・ジャネが世に紹介しました。
「ジャネの法則」と呼ばれています。

数式で表すと、以下のようになります。

時間感覚 = 現在進行系の時間(一定)/生きてきた時間(年齢) = ⊿T/T

例えば、5歳の子の1日は、50歳の人の10日に相当します。
(5歳…1/5=0.2、50歳…1/50=0.02。5歳と50歳で、時間感覚は10倍差がある。)
時間を固定にして、年齢での変化を見ると、以下のようなグラフになります。

ジャネの法則に基づく年齢による時間感覚

このグラフを見ると、「確かに、年齢と時間の感覚はこんな感じかもしれない」と納得してしまいます。

千葉大学准教授、一川いちかわ誠 先生の実験

時間学の研究に取り組んでいらっしゃる、千葉大学文学部の実験心理学を研究されている一川いちかわ誠 准教授の実験が、読売新聞のサイトで紹介されています。
(時間感覚…年齢、状況でずれる「心の時計」)

この記事では、対象者は4〜82歳の約3,500人に、自分が「3分」と感じた時点でボタンを押してもらう実験を紹介しています。
この実験では、年齢が高くなるほど、実際の3分より長くなる傾向が出たそうです。
「代謝が良いほど、心の時計が早く進み、時間を長く感じる」という仮説が有力視されているそうです。

実際に、私自身で、年配の方(60代以上)の方とお話する機会があれば、Webの表示速度をどのくらい待てるか訊くようにしています。
Webページの表示速度が3秒ぐらいでも待てないという方が殆どでした。
(もちろん、これは、きちんとした単純無作為での標本抽出ではないので、バイアスが入っています。)

このように、年齢によっても、時間感覚が異なるのであれば、Webサイトの表示速度についても、対象となるユーザの年齢層に応じた表示速度の目標設定が必要となります。

Webサイトの表示速度は幾らでも「速い」に越したことはない

以上のように、時間帯や年齢によって時間感覚が変わるのであれば、「表示開始0.5秒、表示完了2秒以内」という世界基準も、「どの年齢のユーザにとって?」「どの時間帯で?」という話になります。
今のところ、そこまでの指標値は定められていません。

しかし、「新しいモバイルサイト表示速度の業界指標」でご紹介したように、Googleのディープラーニングで検証した結果が、感覚に関する学問である、精神物理学の基本法則である「ヴェーバー−フェフナーの法則」と近似していました。
それが示すのは、速ければ速いほど、効果は絶大だという事です。
Webサイトの表示速度は、幾らでも「速い」に越したことはないのです。